25年ほど前に設計させていただいた家を訪れたときのこと。
多少古びた外観や成長した樹木が年月の経過を物語っていましたが、メンテナンスもよくしていただいて いるので、それがなんとも良い感じで、クライアントに大切にされて家族の歴史を伴に歩んできたという自負が表出しているような存在感が建物に漂っていました。内部に入ってみると、長い年月の間に家族の
年齢や構成も変わっていたので多少使いづらいこともありますが....と聞きながらも、骨格となる基本的なプランは当初のままで「ここに居ると落ち着くんです」と、設計者冥利に尽きる嬉しいことばをいただきました。
かつての住宅に比べると最近の住宅の断熱性や気密性、耐震性などは大いに向上しましたので、快適性や安全面はずいぶんとその性能がアップしました。また家族の形や社会の風習も多少は変化をしてきました
から、住宅の平面プランもそれに合わせて少しづつ変わってきました。祝祭の場としての和室は省かれるようになり、LDKをオープンな形式とした構成がよく見られるようになってきました。
確かに昨今の住宅の性能は良くなりました。が、しかしそうした新築の家が経年変化していく中で、家の魅力を保ちながら古びていく家はどのくらいあるのでしょうか。年月を重ねることでさらに魅力が加わっ
て「だんだん良くなっていく家」はどのくらいあるのでしょう。新築の真新しさではなく、古びることが家の価値になる、そんな家も少ないですが存在しています。概してそういう家は敷地の環境に上手く溶け込んでいたり、樹木などの外部環境とのバランスがよかったり、古びることで味わいが出る素材で作られていたりしている。もちろんメンテナンスも大切で、家が住む人に愛されていることがそれでわかります。
前置きが長くなりましたが、「古くなってもこの家が好きだ」と思ってもらえるような家を作りたいと、いつも思っています。
そんな家づくりをするための条件は上述したようにいくつかの要素がありますが、その中でも設計者として一番大切にしたいことは敷地の環境条件をよく読み込んでアイデアを絞り、この敷地ならではというプランニングを見つけ出すことです。敷地の特徴を上手く捕まえてこそ、古くなっても魅力を保持した良い家ができるんだ、と思っています。これこそが設計者の腕の見せ処なのです。
敷地の特徴を上手く捕まえてそれを活かすプランを住宅のデザインとして昇華すること。
今回の家では中庭を取り囲むファミリー空間がもっとも特徴的な日常空間として完成します。
生活の中での所作が空間が作り出す壁や窓や家具と響き合って意識化に沈んだ快適感を満たしてくれるこ
とになれば最高です。「ただこの場に居ることが心地良い」そういう空間づくりへの試行となりました。
2013年1月完成予定