「この建物は一体なんですか?」と工事中から何人もの人から聞かれた建物。
幼稚園というのは誰もがすぐにそれと認知できる色使いとか形態が多いのだけれど、このアームストロング青葉幼稚園はどうもそうではなかったようで、ホントに幼稚園なの?と聞かれることが多かったのです。
一目で幼稚園とわかる、そんなアイコニックな形にしない、と意図的に強く考えたわけではないのですが、しかし形をそうすることが優先順位の一番ではなかったという意味では少しは意図的と言えるのでしょうか。
ご希望の諸室や園庭面積を今回の敷地上で検討するとこの敷地では平屋建ては無理で、2階建てにならざるを得ないことがわかりました。2階建ての幼稚園。一般的には幼稚園は平屋建てが望ましいと言われていて、2階建ての幼稚園は避難や保育室が上下階に分かれるなど管理連携がわかりにくくなる等の理由で望ましいとは言われません。それならと、今回の設計テーマは「2階建て」が幼稚園にとってプラスになるアイデアを生み出すこと、と短所を長所にしてみようと考えました。
今回は2階建てだからこそこんな幼稚園ができました、という幼稚園をつくることが優先順位の一番です。
この幼稚園には建主さんとのブレーンストーミングから出てきた3つほどの大きな特徴がありますので先ずそれを説明しましょう。
1)どの部屋も明るくて伸びやかに広がっていく空間がある
2)広くて狭い、明るくて暗い、開放性と閉鎖性など相反する要素が混ざり合った変化に
富んだ空間がある
3)街とつながる幼稚園の形を模索する空間がある
以上の3つの空間性を2階建てであることの利点を取り入れながら具体化したアイデアが以下のことです。
1)2階にあるほとんどの保育室は南面配置とし、深い庇と広いバルコニーをつけ、常時
オープンとなる天窓のある広い廊下と連続して遊戯室の吹抜につながっていく。空間
の上下と視線の広がり感は2階だからこそできた伸びやかな開放性です。
2)均質の空間ではさまざまな感性を持つ子どもたちの冒険心や居心地をフォローできま
せん。2階建てだからこそできる垂直的な空間を利用しながら階段や吹抜など変化に
富んだ場所をそこかしこに用意しました。こども園となって6年を過ごす子どもたち
に園舎全体が冒険に富んだステージとなるように。
3)親にとって我が子の安心安全は最も大切なことです。ですからどの幼稚園も他者から
のセキュリティ確保は現在の幼稚園にとってもっとも重要なことです。本園もセキュ
リティ体制は万全の形となっています。
しかし、そのことが街に対しても閉鎖的な形となっているのも現代の幼稚園の特徴と言えます。本園ではセキュリティ体制の構築はもちろんとしつつも、中心市街地に立地する幼稚園として何か街と触れ合える形がないかと模索しました。今回最も特徴的なことは遊戯室の北面の壁を全面ガラス張りにしたことです。そのため遊戯室からは外の街や道路とつながって見えるので街の様子がよく見えます。外からも(街からも)中の様子がよく見えます。同じように園庭も敷地の住宅街側は建物でシャットしていても反対の大通り側を開放しているので(フェンスで中には入れませんが)園庭で遊ぶ子どもたちの様子を見ることができます。道路を歩く人が何気なく子どもたちの様子を見ることができるのは悪いことではありません。適切なルールの下、街とつながる幼稚園であることがこの幼稚園の教育感ともいえるのです。
2階建ての短所を長所に変える工夫、幼稚園の持っていなければならない機能性のクオリティを磨くこと、など奇をてらわない設計をテーマに掲げてできたアームストロング青葉幼稚園。子どもたちや保育士の先生方がこの先どんな評価を下していただけるのか、一年後が楽しみです。